「まあ、本当に久しぶりね、聡司。夏美から聡司がこっちに来るって聞いていたけど、
引越しはもうすんだの?手伝いに行くわよ。」
母はコーヒーを淹れながらにこにこして言った。
「おかげさまで、もうすっかり片付いたんです。たいした荷物もなかったし、おととい引っ越してきて、昨日にはすっかり片付いちゃって。それで、今日ご挨拶に。」
聡司は手土産に持ってきたお菓子を父の方へ差し出した。
「そんな気をつかわなくていいのに。
しかし聡司君はすっかり大きくなったな。見違えたよ。」
父は笑顔で言った。
それは本当だった。あたしの知ってる聡司はまだ小学生で、そのころあたしは幼稚園の制服を着ていた。
聡司はあたしの母の妹の息子、つまりあたしの従兄(いとこ)になる。
あたしが小学校に上がってすぐに東京に転勤してしまって、それ以来会うチャンスが無くて11年の時が流れていた。何度か法事とかあったんだけれど、聡司は部活が忙しいとかでなかなか福岡まで帰って来なかった。
「K大の大学院に入ったんだって?」
と父。
「はい。最初はW大の大学院にそのまま進学しようかと思っていたんですけど、やっぱり私立はお金がかかるので・・・。ダメもとで国立を受けたら、幸い合格して。」
「そうか~。よかったな。」
「ホントに聡司は優秀ね。その点、由佳には困ったもんだわ、数学が弱くて・・・。今回だって、3年に上がれないんじゃないかってヒヤヒヤさせられたんだから。」
母はあたしを軽く睨んだ。
「もう、おかあさん、やめてよ。」
あたしはため息まじりに言った。
「へえ、由佳、数学苦手なの?」
聡司があたしをみつめる。
「えへへ・・・まあね。」
あたしはうつむいた。