「こら」
と軽く頭を小突かれた。
「また、ぼーっとしてる。何問解いた?」
めずらしく、聡司のほうから声をかけてきた。
今まではあたしが「終わった」というまで、計算に没頭していることが多かったのに。
それに、「また」ってことは、見てないようで意外と観察力あるのね。

「もう少しよ。」
「じゃ、頑張って。」
そういうとまた、計算を始めた。
そんなに面白いのかしら、数学が。

「はい、終わりました。」
「じゃ、みせて。」
聡司が採点を始める。
あたしは無意識にその横顔を見つめていた。
「何?」
いわれて、はっと気が付いた。
「い、いえなんでも・・・」
あたしが口ごもると、また採点にもどる。
「ねえ、聡司は彼女いるの?」
採点を続けながら、
「いたら東京に残ってるよ。」
そりゃそうだ。
「いままでに、好きになったひとはいる?」
「あたりまえだろ」
ちょっとあきれたようにあたしの顔をみた。
「付き合ったことは?」
「付き合ったというか、付き合っていないというか・・・っていうか、なんでそんなこと聞くんだ?そんなことばっかり言ってるから、ほら、3問もまちがってるよ。」
「はい、すみません・・」
でも、ちっとも怖くない。
本当は怒ってないのがわかる。逆にちょっと興味を持ったみたいだった。