人生には、あの時ああしなければよかった、と悔やむことがある。
この場合もそうだった。
もし、あの時、あの写真をみていなければ、私の人生はまた違ったものになっていたのかもしれない。
それとも、見るのは必然だったのかな。
大体、何を見て何を見ない、そんなことを自分で選べる人間がこの世にいるのだろうか。

ビニール袋の中の写真に写っていたのは、スキー服を着た女の人だった。
ゴーグルをあげて、すこし恥ずかしそうな笑顔。
それは、カメラを向けた人に愛情を感じていることが伝わってくる笑顔だった。
年齢は、25歳位。とても綺麗な、でも引っ込み思案な雰囲気のひとだ。

これ以上、みちゃいけない。
あたしの中の何かがそう教えていた。

でも、気がつくと、あたしの手は震えながらその写真に伸びていた。
あたしはコンビニの方を見た。
まだ、大丈夫そう。
あたしは不安に震えながら、でもすばやくその写真をビニール袋から取り出した。
次々とめくってみる。
女の人が一人で写っている写真がほとんどで、何枚か、雪山の風景だけが写っている写真が混ざっていた。
そのうちの1枚にあたしの目は釘付けになった。

次の瞬間、ぱたぱたと車めがけて走ってくる足音。
あたしはあわてて、写真をダッシュボードに投げ込み、扉を閉めた。
「待った?はい、コーヒー。」
ドアを開けると同時に優也があたしにコーヒーを渡してくれた。
「あ、ねえ、あたし、チョコレートが食べたくなっちゃった。」
「え~、マジで?」
「あと、ポテトチップスも。ね、お願い。」
あたしは顔の前で手を合わせた。
優也はため息をついた。
「はいはい、お姫様。じゃ、待ってて。」
手を擦り合わせながらコンビニに走っていく後姿を確認して、
あたしはまたダッシュボードを開けた。