斉藤さんはいわば父の上司になったわけだけど、いままでも先輩面しなかったように、
今回も上司のようには振舞わなかった。
今まで以上に両家は仲良くなり、ひんぱんに家を行き来することが増えた。

私が16歳のある日、斉藤さんの家の庭でバーベキューをしていた。
父と斉藤さんはゴルフの話で盛り上がっており、
母と斉藤さんの奥さんは、お互いの体調の話で盛り上がっていた。
あたしは、バーベキューの匂いで興奮して騒いでいる、ゴールデンレトリバーの「ベル」のそばに行って、えさを与えていた。
「由佳ちゃん」
振り返ると優也が立っていた。
「なあに?」
「由佳ちゃんは、彼氏とかいるの?」
「べつに。優ちゃんはいる?」
「今はいないよ。」
「へえ、そうなの。」
優也はハンサムだし、年齢的にも彼女はいるとおもっていたから、ちょっと意外だった。
「じゃ、お互いフリーってことで、今度遊びに行こうよ。ちゃんと由佳ちゃんのお父さんに許可もらうから。」
「いいけど、どこに行く?」
「ハイキングがてら能古の島に渡ろうか。」
「いいわね、あたしまだ能古の島にいったことないんだ。」
結局、その日のうちに優也は父に許可をもらった。
次の日曜日、あたしたちは能古の島に遊びに行った。
こうして、なんとなくあたしたちの付き合いが始まった。