「着いた」
須嶋くんの声で、もう自分の家まで来てしまったことに気づく
嫌だ
離れたくない
今、離れたら
須嶋くんの気持ちはーーー
「風邪ひくぞ。中入れよ」
もう、
ダメなのかな…
「………うん」
どう頑張ってもあたしは
須嶋くんの深い部分には入れないの
あたしは自分の家の玄関まで歩いてドアを開いた
「…じゃあ、送ってくれてありがとう」
そう言って、中に入ろうとした
「死んだんだ」
入る寸前
須嶋くんの声
「俺が9歳の今日、両親が交通事故で」
振り返る
須嶋くんの顔は
泣いても怒っても
ましてや笑ってもいない
ただひたすら前を、あたしを見て
「俺の目の前で」
かける言葉が、見つからない
言葉が出てこない
だってそれって
須嶋くんもその場にいたの?
まだ9歳になったばっかりで
親が苦しんでいるのを
死んで行くのを
ただ見ているだけ
『見ているだけより、よっぽどマシ』
あたしが言ったこと
でも、まだ9歳
見ているだけしかーー
できない
『神様は叶えてくれなかったから』
お母さんお父さんを
殺さないで
お願い"神様"
『どうにもならない思いをぶつけて』
悲しくて
辛くて
苦しくて
そうすることでしか
思いを抑えることができなかった?
どうすればいいの
なんて言えばいいの
そんなこと考える暇も与えてくれないんだ
須嶋くんは
「じゃあ」
それだけ言って
行ってしまうその背中をただ見つめて
違う
あたしはこんな風に
須嶋くんから聞きたかったんじゃない
雨はもう止んでいたのに
でも次々と流れて
落ちていく涙
いつまでも止まなくて

