「そういえば……お母さんが亡くなってから、もう10年ぐらい経つな」


 お父さんがふと、思い出したように言った。


「あ……そうだね。私が小学校に上がる前に亡くなったから」


 そう。お母さん、病気になってからはずっと入院してて、退院も出来ないまま亡くなったんだよね。

 まだ28才だったのになぁ。今でも生きてたら、お父さんと同じ38になるはずだったのに……。


(お母さん……)


 朝の食卓が寂しく感じ、しんみりとした空気になった。


「……お前には、今までいろいろと、寂しい想いや大変な想いをさせてきたな……」

「っ、お父さん……」


 あ、いけない。朝から泣きそう。

 涙が流れてしまう前に、手の甲で目を拭(ぬぐ)った。


「やだっ、何言ってんの。それは、お父さんの方でしょう? 向かいの宮村家に助けてもらいつつも、家事と仕事、両方こなしてきたんだもん。その忙しい中でも、私の事を大事に育ててくれて……ホント、感謝してるんだよ」

「咲華ぁ……」


 お父さんも目が潤んでる。


「これからも、私がお母さんの分までお父さんのそばにいるから安心してね!
 家事だって、主婦並みにこなせるようになったんだし!」


 私は「えっへん!」と、得意気になって胸を張った。