そう言ってからも母は自転車にまたがる私の後ろを去らないでいた。

振り向くと畑仕事でよく日に焼けたぽっちゃりとした腕を組んで、小さいけれどつぶらな目で私の背中を見ていた。


「ん? 何?」


私が尋ねると母は何かをためらうように言い淀んだが、すぐに口を開いた。


「ううん、そんなに好きならbleu de jardineに行くのは土日に合わせようか? ……昔みたいに」


私はペダルを漕ぎ出そうとした足を止めてゆっくり首を横に振った。


「あそこはもう行かないって決めたから」


そして改めてペダルを漕ぎ出す。


「じゃあね」


――上手く笑って言えたかな。


自転車は次第に速度をあげていく。
それに比例するように吹き付ける風は段々と強さを増した。

少し冷たい乾いた風は、私に秋の深まりを知らせているみたいだ。
私は風を肺一杯に吸い込みながらペダルを漕ぐ足に力を入れていく。
風に溶け込むように自転車を走らせる。


私が目指している場所は、ステイション。