「真奈美、あんたもう出掛けるの?」


玄関を出てすぐの駐車場。
その端に停めてある自転車に鍵を差し込んだところで工房代わりの倉庫から母が顔を覗かせた。


「うん。あ、お昼は適当に済ませるからいらない」


私は自転車のストッパーを上げながら、声のする方向は振り向かずに返答する。
ガチャンと重い音をたてて、自転車のタイヤがアスファルトに降りた。


「毎週毎週……よく飽きないもんだね」


ため息混じりの母の声。
この台詞も毎週毎週なんですけど。


「飽きないよ。母さんには分からないかもしれないけど、あの被写体は時間ごと、季節ごとで全然違く見えるんだからね」


自転車のカゴに放り込んであった愛用の一眼レフカメラを取り出して、私はわざとらしく母の方へ向けて構えて見せた。


「まあ……そりゃ母さんにとってあそこは商売をする場所だからねえ」


倉庫からから出てきた母の手には色とりどりの花があしらわれたコースターが握られていた。

母は自宅横の畑で季節ごとの花を育ててそれを切り花として市場へ出荷している。
それが八割くらい。
残りの二割で今手に持っているコースターみたいな押し花を使った作品を作っている。

作品は週に一回、商品として売られる。
お店にではなく、この街の空に浮かぶbleu de jardineの露店で。
勿論それを売るのは母本人。
だから母にとってbleu de jardineは『商売をする場所』というわけだ。

因みに母曰く、『中々良い商売』らしい。


「そう言うと思った。じゃ、夕方までには帰るから夕飯は作ってよね」

「はいはい、気を付けてね」