人に交わろうとしないのに、
本当は誰よりも寂しがり屋で弱虫、泣き虫のアイツ。


仕方ないから、俺が傍に居てやるよ。


そう思うことが、素直になりきれない俺が
アイツと関わるための言い訳。


だけど……どんな言葉よりも裏腹に、
俺自身がアイツに惹かれてるのは、何よりも明らかだった。




夏……。



俺にとって、最悪の夏が……ほんの少しだけ薄らいだ。




俺があの時、怪我をしてここに入院しなければ
俺は、理佳と交わることなんてなかったはずだから……。




理佳と出逢う為に、
必要な怪我だったって言ったら言い方悪いけど、
そんな風に思ったら、少しは俺自身への苛立ちが紛れた。



リハビリも順調で入院当時よりもかなり動きやすくなった俺は、
検査とリハビリ合間、アイツを追いかけるように一緒に過ごす。





元弥が亡くなって一週間。


毎日、30分の朝のピアノ練習だけだった親父の指示が
ようやく緩和されて、アイツにとってのいつもの日常が戻ってきたのだと、
嬉しそうに微笑んだ。




「なぁ、俺のダチがさお前の演奏好きだって言うんだ。
 何回も、お前の演奏聴く為に病院に足運んでんだ。

 だからさ……その……、一緒についてっていいか?」



勢い任せに紡いだ俺自身の精一杯の勇気。



悪い、隆雪。
勝手にお前のこと、ダシに使って。




「別に私は構わないよ」




拍子抜けするように、告げられて
俺は思わず頭をもたげる。



朝食の後、いつもの様にアイツは安静時間。

俺はリハビリを終えた後、
アイツの居場所を確認して、その部屋へと向かった。




お遊戯室とアイツが呼んでいるその場所の扉の前、
コンコンとノックをする。




ピタリと止まった中の音色。
そして、中から不機嫌そうな顔をしたアイツが姿を見せる。



「もう、来るなら来てもいいけど
 録音してたんだから、考慮してよ」



っておまえなぁ。


無茶言うなよ。