一瞬だけ触れる唇に慌てて、
密着した体を離した。


「ったく。
 
 涙、これで拭けよ。
 パジャマに鼻水つけんじゃねぇぞ。

 ほらっ、拭けよ。
 涙」




そう言うと、俺はアイツに渡してやろうと思って
手にしていたハンドタオルを握らせた。


電気がつけられないから、
携帯電話をサイレントにして、
灯りをともす。



「あのね……友達が亡くなったの。

 この病院で出会って、
 ずっと一緒に治療も頑張って来た。

 もうすぐ移植に行くことも決まってたのに。

沢山の人に愛されて、必要とされてるそんな友達だったの」




アイツは、吐き出すように
俺にしがみ付きながら言葉を紡いだ。


やっぱり原因は、あの元弥かよ。
左近さんの表情の意味が、俺の中で確実に繋がった。



「友達が亡くなる辛さが俺にはわかんねぇよ。

 俺んち、祖父ちゃんたちもまだ元気だからさ。
 
 誰かが亡くなる悲しみって、
 俺には正直わかんねぇよ。

 けど、アンタの友達。

 アンタにそんなに沢山、泣いて貰って悲しんで貰えて
 喜んでんじゃねぇ?
 
 喜びながら、多分……そいつも悲しんでると思うぜ」


ソイツも悲しんでると思うぜ。



言葉にしながら……
アイツは、元弥から何を貰ってた?


俺の知らないアイツら二人に、
どんな時間があったんだ?



そんなことが気になって仕方ない。



何処までもアイツから意識が離れない俺自身に
困惑しながらも、時間は流れていく。






その後も、泣き虫のアイツは
俺の手を握りしめたまま、ゆっくりと眠りについた。




離れるタイミングを逃した俺は、
朝、左近さんが顔を出すまでアイツのベッドに腰掛けて
アイツに腕を取られたまま、朝を迎えた。






泣き虫のアイツの心に、
少しでも寄り添えたら……。




アイツの中に光を灯してやれればいいなって……
そう思えた夜は、ゆっくりと明けていった。