何時もはレクイエムのラクリモーサを永遠と奏で続けるその時間、
私が演奏を続けるのは、トゥーランドット。



裕先生と最初に演奏した思い出の曲。




目を閉じると私の意識の中で鳴りはじめる、
裕先生の演奏に重ねるように、目を閉じてトゥ-ランドットの伴奏を追いかける。


伴奏と言っても、楽譜を読んで覚えたわけじゃではなく
自分の耳でコピーをして、自己的に拾いだした音色。

その音色を追いかけながら、その日の気分のままに音符を増やしていく。




アレンジ、編曲。




そんな大層なものじゃなくていい。


ただ少し……いつもの音楽に、刺激が加われば……。






ふいにノック音が聞こえて、
姿を見せたのは、かおりさん。





「理佳ちゃん、練習ははかどってる?

 今日の理佳ちゃんの演奏の音色は、
 凄く優しくて好きよ。

 裕くんと一緒に演奏していた、
理佳ちゃん、良い顔してたわ。

 理佳ちゃんは裕くんのこと好きなのかしら?」


不意打ちのように言われたその言葉に
『好き』と言う言葉を意識してしまって
照れくささを隠すように、顔を下に向けた。



「あらあら、理佳ちゃんったら」


かおりさんはそんなことを言いながら、
ピアノの周囲に、マイクやノートパソコンを持ち込んで
冴香先生のお稽古を受けやすいように整えてくれた。



「かおりさん……このPC演奏の録音って出来るのかな?」

「ノートパソコンにソフトが入ってたら出来るんじゃないかしら?」


そう言って、かおりさんはPCのアプリを確認する。


「多分、これで出来ると思うわよ」


そう言って立ち上げられたソフトは、
とてもわかりやすい、録音ボタンが赤丸になってる小さな画面。

普通のオーディオと変わらない、再生ボタンや録音ボタンが表示された
それと睨めっこ。


かおりさんが出ていった後、
私は録音ボタンを押して、モモの絵を見て脳内で浮かび上がったメロディを辿るように
ピアノの鍵盤を奏でていく。


PC画面の録音タイムが、4分半に届こうとした時
スピーカーから、久しぶりに冴香先生の声が聞こえた。 



「おはよう、理佳ちゃん。
 暫く体調が思わしくなかったみたいだけど、今日はどうかしら?」

「今日は大丈夫です。
 本当はずっと先生のお稽古したかったのに、宗成先生が許してくれなくて」

「あらあら。
 理佳ちゃんがそう言って私のお稽古を待ち遠しいって言ってくれて嬉しいわ。
 でも先生の方も、このところ忙しかったの。
 昨日までヨーロッパ方面を演奏会でまわってたの」

「私も……行きたかったな」



思わずポロリと零れ出たのは、叶うはずのない欲求。