俺の文句を好き放題言ってただけだろ。
俺に……ぐっさりとナイフを突き刺しただけだろ。
言葉と言う武器で……。



なのになんで、文句言ってたお前が倒れるんだよ。


動けぬまま、じっと見つめ続けるしかなかったその瞬間も、
慌てて駆け込んできた看護師や、親父たちはベッドを囲むカーテンをひいて
懸命に治療をしてた。


『託実、心配かけたな。
 理佳ちゃん、今眠らせたから落ち着くだろう。

 何があった?』



親父に問われた言葉に対して、
『いちゃもんつけられた』の一言しか答えなかったけど、
その後も親父には、アイツが怒鳴った言葉を詳しく聴かせてほしいと言われて、
俺は親父と、久しぶりにゆっくりした時間を作った。



その時……医者ではなく、父親としての立場で親父が
教えてくれたのは、アイツの世界は小学生の低学年から、
この病室しかなかったと言うこと。


この狭い病院の中で、
ここに集まる人たちと沢山の出逢いと別れを経験してきたということ。

そして心臓の病気と向き合って、
今までもこれからも、ずっと頑張り続けているということ。



詳しい病名とか、そんなものは全く教えて貰えなかったけど
アイツの世界が、この病院の中しかないと言うことに俺は絶句した。



俺には……学校があって、友達がいて、
自由に走り回って、風を感じながら声援を受け止めつづけた時間があった。


それが俺自身のプレッシャーになって、
俺にはこんな結果になってしまったけど、
アイツはそんなスタートラインすら知らないのだと思った。



『可哀想』脳裏に浮かんだのは、そんな単語。




「託実、お前今、理佳ちゃんのことを可哀想だって思っただろ」



そう言って問われた途端、思わず親父の顔をガン見する。


「だけど……理佳ちゃんは、そんなこと思ってないんだぞ。
 だから……可哀想とか、勝手に思い込むのだけはやめてやれ。

 お父さんが理佳ちゃんの主治医になった時には、
 もう理佳ちゃんは病名と余命を告知された後だった。

 だけど彼女は、今も必死に生きてる。
 沢山の制限の中で。

 でもな、お父さんの目には時折、何も映してないように見えるんだ。

 だから……託実の入院が決まった時、
 ベッドの万床を理由に理佳ちゃんと同室にさせた。

 最上階を取るのではなく」


親父が口にした最上階は、一族専用のVIP ROOMとなる病室。


「ってことは、親父の希望としては俺は
 アイツにとっての刺激剤って言うか、アイツの知らないことを
 沢山教えてやるそんなポジションでいろってことかよ」

「おいおいっ、託実は何様だ?
 上から目線だな、理佳ちゃんの方が年上だぞ?」

「年上って言ったって、アイツの精神年齢は俺よりガキだろ。
 まぁ、退院するまでは俺が気にしてやるよ。

 その為には、とりあえずリハビリと手術だよな。

 それを無事にやり遂げないと、アイツに大口叩けねぇもんな」



そんな会話を親父としながら、
俺は休み、翌日から本格的なリハビリを始めた。