「大丈夫だよ
理佳ちゃんの心臓は充分今も頑張ってくれてる。
ただ少しびっくりしたんだな。
理佳ちゃん、斎君の病室から飛び出したんだろ」
そうやって言われてしまうと、
事実だから何も言い返せない。
「今は何日?」
「日付が変わったから、今日から八月だな」
宗成先生に言われた時間が、
倒れた日から、一週間になろうとしてることがわかった。
ピアノ……
今週の練習できなかったなー。
冴香先生のレッスンしたかったのに。
キャビネットにある楽譜の方に視線を向ける。
「理佳ちゃん、楽譜はもう少し元気になってから。
モーツァルトの、2台のピアノピアノのためのソナタ。
ピアニストの羽村冴香さんと演奏するのかな?」
裕先生の問いかけに、ゆっくりと頷いた。
「私も楽しみにしてるよ。
その為には、今はゆっくりと休まないとね。
休む時間も、理佳ちゃんには大切だよ。
明日、午前中には日本を発つけど
朝までは此処に居るよ。
だから安心して眠るといいよ」
優しく語り掛けるように紡がれる
裕先生の声に導かれるように、
私は再び、眠りの中に誘われていった。