「そうだね。
託実は来てほしいだなんて言ってないね。
俺が居ることが気になるなら、
空気にしてくれて構わない。
俺は託実の邪魔はしないよ。
だけど誰に指図されるわけじゃない。
俺が俺の意志で、此処に留まってることは
覚えておくんだね」
学院内では、一人称を私にする裕真兄さん。
その裕真兄さんの口調が俺になった時は、
兄さんが少し本性を曝け出してる時。
裕真兄さんは、宣言通り
また俺の隣で、分厚い読書タイムに突入する。
俺はどうすることも出来ないまま、
入院二日目をベッドの上で、じっと体を横にして過ごす羽目になる。
昼食も拒否して、またボーっと眠っていると
またウトウトしてしまったらしく、
次に気が付いた時は夕方。
ずっと隣で読書していた裕真兄さんの姿は、
すでに病室からいなくなっていた。
コンコンっとノックする音が聞こえて、
ゆっくりと開いたドアから、
幼等部の時からの腐れ縁の親友が姿を見せた。
宮向井隆雪(みやむかい たかゆき)。
裕真兄さんを、
グラン・デューティーに持つ俺の大親友。
「よっ、託実。
調子どう?」
隆雪は対して心配してる風でもなく、
軽い感じで話しかけてくる。
「暇だよ。
動けなくて、一日寝てた」
「そっか」
対した会話はしてない。
何気ない会話を交わすうちに、
いつの間にか、隆雪は俺の隣の椅子……
さっきまで裕真兄さんが座ってた場所へと腰掛けた。
「さっき、病室のプレート見た。
同室、女の子なんだって?
どんな子?
可愛い子か?」
「すげぇ、つまんねぇ女。
しゃべらねぇし、暗いし。
お前が期待するような奴じゃないよ」
「なんだよ、それっ。
託実は夢がねぇな。
けど風邪すらもひいたことがない、
万年健康児が災難だったな」
核心につくように、隆雪の言葉が突き刺さる。



