「託実の友人たちがすいませんでした」



裕真兄さんが、そいつに謝罪を始めたのを見届けて
俺は何事もなかったように、
もう一度ベッドに横になった。



朝食は拒絶して、一口も食べなかった。


だけど腹が減らないわけじゃない。





こんなにも心が荒れてても、
腹だけは減るんだ……。





だけど……食事をする気にもならず、
俺は狸寝入りを決め込む。




暫くして、俺の隣に戻ってきた裕真兄さんが
ベッドサイドに座って、本を読み始めたのか
頁をめくる音だけが耳にやけに響いた。




そんな頁をめくる一定のリズムを聞きながら、
俺は再び、眠りの中へと落ちた。




次に目が覚めた時、
向かい側の女の姿がなかった。




「目が覚めたんだね。託実」



分厚い外国語の本から視線を俺に移した
裕真兄さんが声をかける。



「うん。
 向こうのアイツは?」



何となく成り行きで言葉にしてしまう。



「満永さんのことかな?
 彼女はエントランスでミニリサイタル」

「ミニリサイタル?」



なんだそれ?


病院でリサイタルって、わけわかんねぇし
そもそも、アイツってプロの演奏家とかなんか?

人前で演奏して聴かせられる存在ってわけ?



「気になる?」


絶妙なタイミングで問われて、
俺は慌てて口を噤んで、視線をそらした。





「少し前に、叔母さんが様子見に来てたよ」

「別に勝手に来てるだけだろ。
 俺、一言も来いなんて言ってねぇし」

「託実。
 そんな言い方、良くないよ」
 
「俺の話し方に文句あるなら、
 裕真兄さんも来なかったらいいだろう。

 別に来てほしいなんて、俺は言ってない」




八つ当たり。




わかってる……。


わかってても、やめらんねぇ。