自分でもおかしくなりそうなくらい、
全てのものに過敏に心が降り回される。



「君たち、託実のお見舞いに来てくれたんだね。
 有難う。
 
 だけどここは病室。
 ここには託実だけじゃない。

 他にも入院してる人がいるってことを自覚して欲しいかな」




どうしようもなく、苛立つ俺の聴覚に響いたのは
裕真兄さんの声。


学校の最高総である裕真兄さんの存在に、
一斉に静まり返る俺の周囲。



「最高総、大変申し訳ありません」


その場にいた奴らは、
悧羅校の風習に乗っ取って、
膝を折り、頭(こうべ)を下げる。




そう……、今は留学中で日本にはいない
裕兄さんは、学院の最高総を務めた存在。


そして裕真兄さんも、一綺兄さんも
存在そのもので、
そこに居る人たちを従えさせてしまう。




だけど……そんな素質、
俺は持ち合わせていない。




裕真兄さんの登場に、僅かに感じた喜びも
即座にストレスと言う足枷になってしまう。



「陸上部の皆さんは、
 託実の分まで頑張って来てください。

 もうお昼時になります。
 皆さんは退室を」



最高総の言葉は絶対の存在。

裕真兄さんに促されるままに、
俺を気遣う言葉を告げて病室を出ていく部活の仲間たち。



裕真兄さんは、俺のダチが出ていったのを見届けて
反対側のベッドの女の方へと近づいた。







本当は俺が謝らなきゃいけない。




病院は騒いでいい場所じゃない。

そんな常識を
持ち合わせてないわけじゃない。



だけど……結局、騒々しくしてしまったのも現実。


だから謝罪しないとって、思うんだけど
心とは裏腹に、その一言が絞り出せなかった。