最近ずっと見なかったのは、
留学してたからなんだ。
そう思ったら、ちょっぴり寂しくなった。
「あらっ、裕君が留学して寂しくなっちゃったかな?
理佳ちゃん、中学生のあの日から
ずっと裕先生・裕先生だものね」
そんな風に左近さんに言われてしまう。
好きか嫌いかって言われると、
多分、好きになるんだと思う。
だけど、それは……恋の好きじゃなくて。
一人で過ごす病院生活で出会った、
優しいお兄ちゃん。
裕先生は私にとっては、
そんな感じで。
昔みたいに一緒に演奏して貰えた時間が
懐かしかっただけ。
後は……また生きてる間に会えて
良かったなーって思えた、純粋な喜び。
「ねぇ、左近さん。
元弥(もとや)君のところに寄ってもいいかな?」
わざと声を大きく出してその話題から逃げようと試みるも、
こっちはこっちで駄目だったらしく左近さんとの会話は、
予想外の方向へと展開していく。
斎元弥(いつき もとや)君。
私と同じように心臓に病気を抱えた友達。
「そっか。
裕君は理佳ちゃんと離れすぎだもんね。
理佳ちゃんには、斎君が居たわね」
「もう、左近さん。
元弥君もあくまでお友達なんだからね」
「はいはい。お友達ね」
そんなことを言いながら左近さんは、
何時も私の体が許す限りは私の願いを叶えてくれる。
音楽に沢山の力を貰ってる私。
音楽を通して、こんな狭い閉ざされた場所でも、
誰かに(生きてる証)を知って貰える時間。
そんな時間を噛みしめながら
ゆっくりと抱きしめていく。



