本当はトイレなんて
行きたくもなかったけど……。



約束通り、トイレに行って何事もないように給湯室の紙コップに、
ミネラルウォーターを注ぐと、流しの前で紙コップの水を口に含んで
軽くうがいをしては、流しの方へと水を吐き出した。





これも小さい時からの生きる為に
教えられてきた制限。



疲れやすい体を守るために、
運動はさせて貰えない。


そして心臓に負担をかけないように、
水分と塩分を取りすぎないこと。



1日に接収する私の水分量は制限されていて、
それは食事の時の水分量も含まれているから
喉が渇いても、必要以上の水は嚥下することは許されない。


だからこうして……うがいと言う形で、
口の中を湿らせて、吐き出す。




紙コップに2杯分ほど
そんな行動を繰り返して、
私はもう一度、自分のベッドへと戻った。



だけどそのまま、眠りに落ちることは出来なくて、
窓際のカーテンだけを開いて、外を覗きながら朝を迎えた。






ノック音の後、
病室に入ってくるのは宗成先生。




「理佳ちゃん、おはよう」



いつもの様にカーテンを潜って、
私の傍に来ると目線を合わすように
ベッドサイドの椅子に腰掛ける。




「おはようございます」

「調子はどう?」



そんなことを言いながら、
先生の指先は私の瞼をグイっと押して
すでに診察モード。


「夜にお手洗いに行きたくて目が覚めて、
 その後、寝れなかっただけだよ」


看護師さんに説明したのと同じように、
宗成先生にも告げる。


「託実が……
 息子が迷惑かけなかったかい?」



そう言って『託実』と子供の名前を紡ぐ
宗成先生は、お父さんなんだなーって思えるほど
柔らかな微笑みを携えてた。