「託実、どうしたの?」

「理佳を探してて。
 アイツ、病室に居ないから……」



そう言った俺に、裕真兄さんは溜息をついて
ゆっくりと告げた。



「理佳ちゃんは集中治療室。
 今は病院のスタッフさんたちに、理佳ちゃんのことは任せるしかないよ」

「理佳……熱が出てるだけなんだろう?
 すぐに元気になって、またピアノ弾けるんだろう?」


親父たちに任せるしかないってことはわかってる。

だけど……俺は、理佳がまたすぐにピアノを弾きながら
俺の傍で笑ってくれるって保証が欲しかった。


裕真兄さんは……その保証をくれるって思ってたのに、
その兄さんが告げた言葉は、俺を谷底に突き落とした。



「託実、理佳ちゃんが発症している突発性拡張型心筋症。
 この病気はね、熱が出たり、風邪をひいてしまうと重症化してしまうんだ。

 この病気を告知された時から、理佳ちゃんは心不全とか不整脈、血栓塞栓って言う
 状態に脅かされてきたんだと思う。

 肝臓が悪くなったり、腎臓が悪くなることもある。
 息切れ、動機、呼吸困難そんな症状も何度も繰り返す。

 宗成叔父さんの治療を受けながら、ピアノも弾けるように元気に過ごせてるように思えてた
 理佳ちゃんだけど、やっぱり一進一退を繰り返し続けてるんだ。

 告知をされた時には、治療法が殆どなくて18歳まで生きられないって言われてた
 理佳ちゃんが、今も闘病で頑張ってるのは医学が少しずつ進歩してるから。
 
 だけど……それでも、救えない命もある。
 そうならないように、今もあの部屋の向こうでは皆が闘ってる」


 
そう言いながら、裕真兄さんは俺をすぐ近くのソファ-に座るように促して
目の前の自販機で購入した、ジュースを手渡した。

受け取った缶ジュースを一気に飲み干しながらも、
理佳のことを思い続ける。



「託実、理佳ちゃんは強い子だと思う。
 また元気になって、あの部屋を出てくるはずだよ。
 だから今は、信じて託実は待ってよう」 
 


俺の隣で座りながら、裕真兄さんはそう言った。