「なぁ、理佳。
 もうすぐ何の日か知ってる?」



練習するピアノの音が途切れた瞬間に、
俺はアイツに顔をあげて問いかける。



「えっと……年越し」


年越しって、その前の行事を素っ飛ばすなって。


「年越しの前、クリスマスだろ。
 今なんて、街中クリスマスだらけだぞ。
 病院のエントランスにも、デカいクリスマスツリー飾ってるんだぞ」


そうやって言いながら、言葉にしてしまった後に
思わず口元を抑える。


ヤバい、俺……地雷踏んだか?


理佳の表情が曇ってしまったから……。


いやっ、マテ……だけど、アイツは車椅子で前みたいにお遊戯室には行けるようになった。
ピアノも弾けるようになった。

だったら……エントランスに降りることも出来るんじゃないか?
だったらクリスマスツリーも見れるはず……。


「託実……ごめん。
 うちの家、クリスマスはないの。

 誕生日もクリスマスも、我が家にはもうないの。
 私の病院代で沢山お金使わせるから。

 小学校の時に、誕生日もクリスマスもいらないって
 お父さんとお母さんに言ったから」


そうやって紡いだ理佳の言葉に、
表情がかげった意味を知った。



「でも今年は俺が祝うって言うんだから、
 両親は関係ないだろ。

 俺が自分が楽しむために、
 理佳を巻き込んでクリスマスやりたいだけだ。

 でもさ、25日の夜は、隆雪と怜さんのLIVEに一緒に出して貰えることになったんだ。
 だから理佳と過ごすのは、イヴの夜でいいか?

 親父に話しとおして、小さなクリスマスケーキ用意する。
 食べれそうなら食べればいいし、許可出なかったら一緒に飾っててもいいじゃん」


そうやった答えた俺に、再びアイツは俯いた。


「どうした?
 なんか不服か?」

「ううん、嬉しいよ……。
 嬉しいけど、私……24日の夜はダメなの。
 もう予定入ってるの」



そう言って理佳は、遠慮気に引き出しの中から封筒を取り出した。




羽村冴香ピアノリサイタル
神前アメジストホール 18:00
聖なる夜を彩るひとときを……。



そうやって記された、チケットが二枚。



「良かったじゃん。
 憧れの羽村冴香のピアノリサイタルに招待されて」

「うん……良かったんだけど、違うの……。
 託実……後ろ、見て」 

 

言われるままに、チケットの裏側に視線を向ける。