学院祭最終日、倒れた理佳は
そのまま親父の働く病院に搬送されて救急処置。

俺には理佳の体に何が起きたのか、
熱が出たくらいに思ってたけど、俺が思ってる以上に
アイツにとっては大変なことになってた。

運営委員だったために学校を離れることが出来なかった俺が、
アイツの病室にかけつけたのは、21時頃。

アイツがホールで発熱してから5時間くらいが経過していた。
制服姿のまま、駆けつけた病室にアイツの姿はなく、
ナースセンターへと顔を出した。

理佳はICUでの処置を必要とする状況で、
すぐには対面できなかった。



理佳がICUから出てくるその日まで、
学校の後、毎日、病院へ顔を出す時間が増えた。

顔を出したところで、逢うことは出来ないまま
理佳が何時帰ってくるかわからない、病室で一人、
鞄から取り出した参考書と向き合う時間が過ぎた。

そんな生活から1週間ほどたった頃、一綺兄さんが
大きな箱を持って、病室を訪ねてくる。


「託実、少しは休んでる?」

「適当に……。でもなかなか寝れない。
 寝かけたら、夢で、アイツが俺の前から去ってくんだ。
 怖くなって起きたら、そのまま勉強しながら朝。

 なぁ、俺……アイツの病気のこと調べたけど、
 今のアイツに何が起きてんのか、わかんねぇよ。

 どの本にも、心不全・不整脈・血栓塞栓に気を付けるって
 難しいことばっか書いてた」



愚痴れる相手は……隆雪か年上の兄さんたち。

だけど……理佳の件に関しては、
兄さんたちの方が、俺自身が安心できる気がして。


「理佳ちゃんのことを心配に思う託実の気持ちは、
 私もわかってるつもり。

 託実とは違った意味で、私も理佳ちゃんのことは心配だから。

 でも託実と同じように、私も理佳ちゃんの病気のことわからないんだ。
 医者には守秘義務って言うのがあるよね。

 だから私も、今まで見てきたことでしか、理佳ちゃんのことはわからない。
 そう言う意味では、託実と同じなんじゃないかな?

 裕真や裕先輩みたいに、その道を目指して勉強しているわけじゃないから
 理佳ちゃんの状態を見て、今がどんな状態かわかるわけでもない。

 だけど……、だからこそ、私たちに一番出来ることもあるんじゃないかな。

 理佳ちゃんがこの部屋に戻ってきた時に、
 ほっとするように、何時もと同じような環境を作り続けること」