中山さんの声に、彼は黙々と作業を続けて
弦を指先で爪弾き始めた。

時に弦の上を指先が踊るように、時に弦の上を掌で叩くように演奏される
その音色に、俺はまた惹き込まれていった。


だけど……このベースを
俺が演奏してるところはちょっと想像つかなかった。


アイツが一通り演奏を終えた後、
俺は自分の探したい相棒を言葉で伝えてみようと思った。



「あのさ、ベース。
 弾きにくくても別にいいんだ。

 太い厚みのある音ってないのかな?
 唸るって言うのか……」


そう言った俺の言葉に、その場にいた隆雪たちはフロアーを探しに行く。


そう言って手にしてきたベースを、
アンプに繋いで、さっきと同じように羚が奏でてくれた。


さっき、羚が演奏していたのとは違って、
ゴリゴリって言うのか、唸るような太い低音が響いた……。


その音色が、俺にとって心地よかった。



「託実、ギブソンのサンダーバードって言われるベースだよ」


隆雪がそう教えてくれた。


「サンダーバード……」

「そう。
 音は気に入ったんじゃない?

 託実らしくて。
 ただ演奏はやりづらいだろうけどね」

「確かに最初の一本には向かないかもしれないけど、
 託実くんが気にいったなら、持ってみるかい?」


隆雪や中山さんの言葉に、
俺は背中を押される気がした。


サンダーバード。
その音色に魅了されてる。


「中山さん、それで。

 有難う、隆雪。
 それに、怜さんに羚」


そう言うと、サンダーバードを手にした中山さんと共に
親父と叔母さんの待つ方へと移動した。


その日初めて手にした相棒。


ギブソン サンダーバード。

そして練習に必須アイテムの、アンプとエフェクターを一緒に購入して
俺は家へと持ち帰った。


中山さんから最初の宿題である、
ドレミファソラシドの指の動かし方を教えて貰って。

ベースのテキストと睨めっこし、
ネット動画でベースを弾いている演奏動画を追いかけて
教室と自宅で、必死にサンダーバードを触り続ける日々。