理佳の病室に通っては、
もやもやとした感情を燻らせながら
時間だけが過ぎていく時間。


理佳と付き合う様になったって言っても、
俺には俺自身で誇れるものなんて今はない。


理佳は、隆雪や裕兄さんが気にかけるほどの
音楽的な才能が多分、あるんだと思う。


幾らメイク・ア・ウイッシュで出逢ったからって
その場で交流が終わらずに、今もピアニストの羽村ってのが理佳と関係を続けてるって言うのも
多分、理佳の埋もれてた才能に気が付いていたからかもしれない。


そんな風にすら、思えてしまう。




劣等感……。
簡単に消えるもんじゃないな。



だけど……SHADEと出逢って、
昂燿校の……怜さんが出逢わせた、廣瀬って奴と瑠璃垣って奴、そして楽しそうに
演奏してる隆雪を見てたら、俺も興味が湧いてきたのは事実。


それに……SHADEには、俺よりも年下の羚って奴がベースをしてた。

陸上以外に、初めて興味を惹かれた存在。



だけど面と向かって、『ベース買いたいから、通帳貸して』なんて
母さんに話せるほど、覚悟も出来てない。


かといって、普段使用してるメイン通帳には
ベースが変えるほど、入ってるわけじゃない。


ガキの俺は、保護者である親に話しを通さないといけないわけで……。


そんな葛藤だけが俺の中に渦巻きながら
時間だけが過ぎていった。


そんなある日、理佳の病室にいつもの様に姿を見せると、
理佳は、手元に五線譜に沢山書かれたおたまじゃくしを追いかけながら
ふんふんと、ハミングで口ずさんでた。