二学期。

夏休みの間に、中三だった俺は陸上部を引退。

二学期開始と共に、デューティーのいるグラウンドを訪ねて
高等部では、陸上はしないことを伝えた。


後悔はしていない。


今の俺は、陸上以外の別の世界を知ってみたい。


理佳の病気を治せるなら、
親父や母さんたちと同じ、医者って言う選択肢もありかも知れない。


そんな風にすら思っているから。



「託実は最近、本当に理佳さんしか見えてないんだから」



堂崎にはそんなことを言われるけど、
それでも実際問題、こうやって離れている間も授業中も頭の中に浮かぶの理佳のことばかり。



倒れてないだろうか?




真っ先に出てくるのは、体調を気遣う想い。


アイツが倒れて集中治療室に居る姿なんて、
出来れば見たくないから。

なのにアイツと来たら、人の気も知らねぇで
毎日毎日、ピアノ・ピアノ・ピアノ。

楽譜・楽譜・楽譜。



俺が見舞いに顔を出したときも、嬉しそうな姿を見せるのは一瞬で
すぐに五線譜におたまじゃくしを泳がせてる。



俺には暗号過ぎてわかるわけねぇだろ。



仕方なしに、アイツのベッドサイドの椅子に腰掛けて
俺は鞄の中から、学校のテキストとノーパソを取り出す。


そこで黙々と勉強を続ける放課後。



陸上部を引退すると、そんな放課後の過ごし方しか出来ないのかよって言う想いと
それでも理佳の傍に居られるだけでもいいって思う、
そんな気持ちが俺の中で交差していく。