親父が理佳の傍に顔を出している間、
反抗せずに、久しぶりに母さんと話せた気がした。
「なぁ母さん。
医大って難しい?」
「何?託実。
理佳ちゃん?」
「まだ誰にも言ってないけど……、
そんな未来もあったっていいかなって思ってさ」
「そうね。
難しいには難しいけど、やる気があれば大丈夫よ。
お父さんだって、お母さんだってこうやって医者としてやってられるんだもの。
託実がお医者さんへの道を歩きたいって思うなら、反対はしないわよ。
精一杯やりなさい。
学費は心配しなくていいわよ」
母さんはそんなことを言いながら笑ってくれた。
アイツがご飯を食べ終わった頃、親父も俺の方に顔を出す。
「託実、何母さんと話してたんだ」
「別に、何でもねぇよ」
「そうねー。今はまだ、何でもないわね。
もう少し自分の中で、その夢と向き合って
心が定まったら、今度はお父さんに伝えなさい。
託実の気持ちを」
母さんはそう言って話を終わらせた。
一人置き去りにされた感があるらしい親父は、
俺と母さんの顔を交互に見つめながら、苦笑いした。
親父たちが病室から帰った後、
再び二人きりになった病室。
消灯時間までの間に、
「託実くん」と理佳が俺の名を呼んだ。
「何?」
「少し、こっちに来て貰えないかな?」
言われるままに俺はベッドを降りて、
向かい側のベッドへと歩いていき、理佳のベッドへと腰掛けた。
起動されたノートPCのモニターに映されたのは、
メイク・ア・ウィッシュと綴られた文字。
「これは?」
「今日美加さんや、宮向井君が話してた昔のTV番組。
今は、こうやって昔のTVの映像をネットで見ることが出来るんだね。
本当はすぐにでも消したかったこの番組。
だけど……、今だけはネット上にUPされてて良かったと思ってる。
UPされてなかったら、託実くんに見せることなんて出来なかったから」
そんな前置きの後、再生された。
小児病棟のベッドに寝かされて、
点滴と管を付けられたままの、まだ小さい理佳がそこには映し出されてた。



