「ねぇ、演奏してよ。
 
 貴方が七年前に、メイク・ア・ウィッシュに叶えて貰ったときに
 羽村冴香と演奏した曲。

 なんだったかしら?

 18まで生きられないって、TVに出演してた割には長生きしてるよね。
 今、何歳になったの?

 心臓の病気だからって、ちやほやされて、願い事叶えて貰って幸せでしょ?
 ほらっ、あの時演奏した曲聴かせてよ」




心がチクリと痛んだ。
だけど……初めてのことじゃない。



この場所で、演奏していると……
こんな風に、心無い言葉を投げつける存在も昔から居た。



その度に……心が痛くなって、呼吸を忘れそうになる。
だけど……私は今も生きてる。


こんな時……
生きてることに罪悪感を感じてしまう。



ピアノの鍵盤を見つめたまま、
両手を胸元で重ねて耐えるように、
自分の中で気持ちを消化しようと試みる。




そんな時間は体が硬直していく。



外の感覚を意図的に遮断していくイメージで
内なる自分を防衛する。


この場所に集まってくれてる人達の
目を見るのが怖い……。




「理佳さん、あの子か言ったことは気にしないで」


ふと俯く私の傍に足音が近づいて、
少年の声が微かに聞こえた。


どれだけ感覚を閉ざそうと必死になったも、
その声は、ゆっくりと私の体に染み渡っていく。


まだ顔をあげることが出来ない私に、
少年は会話を続けた。



「俺も、理佳さんのことはTVで知ってた。

 あの番組に出演して願いを叶えて貰った難病の子たちが、
 次々と亡くなってるのも知ってる。

 だけど……俺は、今もこうやって生き抜いてる理佳さんに逢えて嬉しい。

 あの頃、TVでしか出逢えなかった理佳さんに、
 こんなに身近で逢えるのがわかった時、嬉しかったんだ。

 だから、理佳さんの演奏を聴かせてよ。
 
 今年小学校になったばかりの弟がさ、
 最近練習してるんだ。

 寮生活だから、たまにしか練習してるの聴けないんだけど
 ショパンの幻想即興曲きかせてくんない?

 右手と左手のリズムが違ってるの?
 なんかすごく弾きにくそうに練習してるんだよね」



その男の子も、昔の私を知る存在。