視聴覚室

「で、入らなきゃいけないのよね」


 視聴覚室の扉の前に立ち、私が洋子へ当たり前のことを訊ねる。

 そりゃそうでしょ、とうな垂れたまま洋子が答える。

 気が進まないのは一緒なのだ。


 この教室はちょうど技能校舎と二年校舎の角にあたるからか、廊下に窓がない。

 昼間は当然電気がつかないから、この辺りだけ他と違って薄暗くなっている。

 そのことが、余計気味悪さを助長させた。


 渡された鍵を鍵穴に差し込むと、私はゆっくりと回した。

 ほどなくして、カチャと小さな音が鳴る。



「……今さらなんだけど、洋子はこの視聴覚室の話、何か聞いたことある?」

「うーん……開かずの教室ってだけ、かな。そこにおまけは付いてないけど、なんか気味悪いっていうか……」

「わかる。その名前だけでなんか怖いよね。なんでだろ」


 えへへ、と二人で笑い合った。

 そうなのだ。いわゆる、「あそこはいわくつきで……」という話は耳にしたことがない。

 まだ、入学して半年も経っていないからかもしれないけれど。