視聴覚室

「夏のコンクールが終わったら、すぐ定期演奏会だろ? 参考にしたいから、早めに目を通したいと思ってな」

「いいですよ。それで、これは何の図ですか?」


「視聴覚室だ。今は物置になっていてるらしいから、簡単に中に置かれた物の配置を他の先生に書いてもらったんだ。ダンボールの山らしくてな」



 視聴覚室? その言葉に、私はぞわりと毛が逆立った。

 隣を見れば、洋子も若干ひきつった笑み。


「先生、あのぅ……」言いづらそうに口火を切ったのは洋子だった。


「あそこって、開かずの教室って呼ばれてるじゃないですか。だから、そのぅ……」


「開かずの教室? なんだ、くだらない。資料整理の時は出入りするらしいから、そんなものはデタラメだぞ。

先生は今やってる仕事を片付けてから向かうから、先に行っててくれないか」


「えぇっ! 私たちだけでですか?」

 思わず口走ってしまった私。

 慌てて口を押えると、江口先生は呆れたように肩をすくめた。


「こんな昼間から、しかもこんなに人が大勢いる学校内で、一体何があるというんだ。頼んだぞ」


 差し出された手に握られていたのは、銀色の小さな鍵。

 私がしぶしぶ手を広げると、ぽいと軽く乗せてきた。心なしか、ひんやりと冷たかった。