視聴覚室

 コン、と控え目なノックが響いた。

 部室は音楽室の一番後ろに設置されている。

 演奏中はよっぽどなことがない限り席を立つことは許されないから、配置的に考えると今ノックをしたのはパーカッションメンバーということになる。

 早く準備しろってことかもしれない。


 私はそっと部室の扉を開けて外を窺い見た。

 細く開かれた隙間の向こうには、高志先輩が身を屈めてこちらに背を向けていた。

 つい先ほどまで高志先輩のことを考えていただけに、どきりと心臓が跳ね上がる。


 先輩にだけ聞こえるように、でも楽器の音で全く聞こえないまでには小さくせず、私は隙間から声をかけた。


「あの、先輩。篠崎さんは大丈夫です。落ち着いたら、きっと部活にも出てこられると思います」


 しっかりと耳に届いたのだろう。高志先輩は顔を横に向けると、肩越しに視線だけをこちらに寄越した。目尻が下がっているのが見える。安堵したのかもしれない。


 早く来いよ。そう指で合図すると、高志先輩は素早くその場から立ち去っていった。ちょうど演奏が途切れたからだ。

 私も一呼吸置いて部室から出た。


 昼休みまで延々練習を続け、「じゃあ一時に全員音楽室に集合するように。午後からは三部を中心に練習するからな」と江口先生が声を張り上げた。

 みんなが揃ってはい、と返事をする。


「それからな、えーと安原。おまえからも何かあるんだったな」