一学期が終わり、私たちは夏のコンクールまであと一週間と押し迫った状況だったので、余計なことを考える暇もなかった。


 結局、洋子は新しい携帯に買い直した。


「さすがにあの携帯は使えないでしょ。ある意味、谷先生が洗って壊してくれて良かったかも。近藤君に話したら、大笑いされちゃった」


 めでたくカップル成立と相成った二人。

 洋子の待ち受けはラブラブな写真に変わっていた。

 それでこそ、あの怖い思いも役に立ったということか。


 例の事件の翌日、私と洋子は江口先生に準備室へと呼び出され、丁重に謝罪された。

 呆れたことに、朝職員室で先生たちに話を聞かされてから私たちのことを思い出したらしい。

 そりゃ、奥さんも大変だったし、待望の我が子が産まれる一大事だったわけだから仕方がないけれど。


 帰り際、今度は職員室へ再度呼び出されると、そこで某有名洋菓子店のシフォンケーキを頂いた。

 うん、乙女の心をよくわかってらっしゃる。



 私の携帯は、特にこれといって異変はなかった。

 あのノイズは何だったのだろう。

 誰も居なかった視聴覚室で、一体誰が洋子の携帯で電話に出たのだろう。


 考え出すと怖くなる。そして、答えは結局出てこない。

 だから私は極力考えないように努めていた。



 変化があったのは、夏のコンクールが終わってからだった。