あれから数日間は、何事もなく過ごしていた。

 少しでも異変があれば二人でお祓いに行こう。そう話し合っていた私たちとしては、正直肩すかしをくらった。


「私もう絶対、視聴覚室には近寄らない!」


 そう宣言していた洋子ですら、今では目の前の廊下を素知らぬ顔して素通りしている。

 至って平和な日常。

 杞憂に終わって、私は一人ほっと安堵した。


 お祓いの話が出た時、私の脳内にふと思い出した人物がいた。

 昔――特に中学一年生の時に、大変お世話になった人。近所に住む、弥生お姉ちゃん。


(なにがあっても、私は理香ちゃんの味方だからね)


 線の細い、少し色白すぎる女性。

 いつもは力なく微笑む彼女が、一度だけ本気で私を叱ってくれたことを今でも鮮明に覚えている。


 そういえば、彼女は今どうしているだろう。

 また近々会いに行こうかな。定期演奏会に招待してみようかな。

 そんなことをぼんやりと考えていた。