言われて覗き込んだ先に、洋子のピンク色をしたスマートフォンが落ちてあった。

 さっき私が鳴らした着信を知らせるランプが、画面上部で点滅している。


 それよりも目を見張ったのは、黒いものが数本携帯に絡まっていたこと……


「髪、だよね。これ……」


 一呼吸間をおいて、私たちは再びきゃーっと叫びあった。

 なんだなんだと谷先生が入り口から顔を覗かせる。


「先生っ! もうやだぁ! この携帯絶対呪われたぁー!」

「大丈夫! 大丈夫だよ、洋子! 先生、塩持ってきてください、塩!」

「塩なんぞ持っとるわけないだろうが。なんだ? 何を騒いでるんだ」


 洋子が携帯を指差して泣き出す。

 私は頭がパニックになって、とにかく塩! 塩かけて清めなきゃ! なんて可笑しなことを言い続ける。



 私たちの様子を呆れた目つきで眺めていた谷先生は、また「アホか」とくだらなそうに言い放ち、ひょいと洋子の携帯を拾い上げた。


「髪がくっついとるくらいで騒ぐんじゃない。どれ、貸してみ」


 言ったそばから歩き去っていくものだから、私たちは慌てて後を追った。

 向かった先は男子トイレだ。


「こんなもん、洗ってしまえばええだろうが。近頃のはどれもこれも水を弾くんだろ?」


 何のためらいもなく、谷先生は蛇口をひねってジャブジャブと豪快に洗い出す。


「きゃー先生っ! 私の携帯、防水機能ないですからーっ!」



 洋子の叫び声は、職員室にまで届いたらしい。