視聴覚室

 トイレを正面に、極力、視聴覚室は見ないように壁にもたれて腰を下ろした。

「あーやっぱり……」と洋子の声が小さく聞こえてきた。



 その時。どこかで小さくメロディが鳴り出した。



 慌てて手元を確認すると、自分の携帯は無言を保っている。ということは、視聴覚室に落としてきた洋子の携帯だろうか。


 数秒鳴り続け、また静寂が訪れた。



「ねぇ、洋子?」

「なにー?」と相変わらず扉の向こうから声が飛んでくる。


「洋子の携帯って、着信何の曲にしてるの?」

「『君の瞳に恋してる』だよ。あーでもメールは違うか。『宝島』にしてる」


 宝島とは、吹奏楽の定期演奏会ではもっぱら人気の曲だ。賑やかで明るくて、何より楽しくなる。


「やっぱり。私が宝島にしてるから焦っちゃった。じゃあ洋子、たぶんメールきてたよ」

「えっ!?」


 がたがたっと焦ったような音を立てて、洋子が個室から飛び出した。

「ちょっと待ってて!」蛇口をひねる音が聞こえ、じゃばじゃばと忙しなく手を洗っている水の音が響く。



「あれ? まだ江口先生戻ってきてないの?」