初めてその教室に入ったのは、高校一年の一学期も終わりに差し掛かったころ。



 期末テスト最終科目を終えた私は、普通科とは違って一時間早く解散となった。


 高校に入って新たに出来た友人の葵が、「何か甘いものでも食べに行こう」と誘ってくれたけれど、私が所属する吹奏楽部はなかなか厳しいもので。



「商業科は普通科より早くテストが終わると思うが、だからと言って遊びに行くんじゃないぞ。音を出すことは出来ないが、譜面読みや楽器の手入れ、出来ることはいっぱいあるんだからな」



 顧問の江口先生が、四角い眼鏡の奥からじろりと私たち新入生を見渡したのは昨日のこと。


 普通科が終わるまでの間、テスト呪縛からの解放感を味わうべく外に出ようと企てていた私としては、がっくり肩を落としたものだ。