「そういうことは、ここでは言うなって…」
今までの無関心はどこへやら。
急いで振り返って、私の口を掌で覆うと…
「誰かに聞かれたらどうするんだよ?」
なぜか声を潜めて。
じろっと私を睨んできた。
「大丈夫だよ。もう佐々木さんしか残ってないもん。」
さっきまで一緒だった佐々木さんは、パートさんだけど、事務の大ベテラン。
若い社員さんよりも全然、頼りがいがある。
私も今なお、ずいぶんお世話になってるわけだけど…
それだけではなく…
「佐々木さんは全部知ってるんだもん。別にいいでしょ?」
この塾で唯一、
私たちの“関係”を知る人物だったりする。
「そりゃ、そうだけど…わかんないだろ?まだ他にも誰かが残ってるかもしれないし、戻って来るかも…」
「大丈夫。鍵は閉まってる。」
「いや、そういう問題じゃなくて…バレるわけにはいかないんだからな?」
至近距離で。
そんなに真剣な瞳で見つめられたら…ダメだ。
反省するどころか、うっかり見惚れてしまう。
だって、カッコイイんだもん。
さすが…
私の“旦那さま”だ。