嘘と微熱と甘い罠


後ろから聞こえた声に振り向くけれど。

浮いてきた涙のせいで視界が歪んでいてゆらゆらしている。

でも、姿を見なくてもわかる。

気付かなかった。

気付けなかった。

私の後ろから近づいて来ている足音に。

…相良が、近づいていることに。





「…またお前か、相良」

「仕事中なんでそいつ、返してもらえます?」





頭の上で聞こえるため息混じりの苦々しい声は笠原さん。

私の後ろに立った相良は、明らかに怒っている。

私はさっき、相良から逃げてきた。

それなのに相良は今、ここにいる。

…なんで?何しに来たの?

追いかけてきてたの…?





バクバクと心臓が大きな音をたてる。

背中にイヤな汗がツツッと走るのを感じた。





「返してって言われてもなぁ。天沢はものじゃねぇんだろ?」





私の腕をグッと引く笠原さんの言葉はふざけてるようで。

でも低く、威圧的なその声は。

私にじゃない、背後に立つ相良に向けられていた。