嘘と微熱と甘い罠


頬が濡れていることに気が付いた。

悲しいのか、怒っているのか…虚しいのか。

頬を濡らす涙の理由ははっきりしない。

ただひとつ。

苦しい、苦しいよ…。

胸が苦しい、呼吸が…うまく、できな、い…。





「っ、はぁ、はぁ、はぁ、はぁ…っ」





胸を押さえて踞りそうになる。

苦しい、苦しい…っ…。

意識を飛ばしてしまいたいくらいの苦しさ。

私はその場から離れるのが精一杯だった。





「…も、う…っ、いや、だ…ぁ…」





ミーティングルームでもトイレでもない。

非常階段の壁に寄りかかり、ズルズルと床にへたりこむ。

人気のないこの空間に、私の呼吸音だけが響いているように感じた。





…ねぇ、これは…たちの悪い夢?

行き過ぎた相良と笠原さんの悪ふざけ?

それとも。

相良を好きになってしまった…代償…?





「ふっ…くっ…ふぇ…っ…」





頬を伝う涙は途切れない。

口から漏れる嗚咽を必死に堪えながら、私はそこで膝を抱えた。