嘘と微熱と甘い罠


立っていられなかった。

でも。

必死に力の抜けそうな足に力を入れ、踏ん張っていた。





怒っている相良のことは気にしてないのか。

笠原さんはそのまま言葉を続けた。





「本命以外とはキスしないって言ってんのに。あいつ、それに気付かないくらい俺に惚れ込んでるから」





…そうだ。

私は笠原さんの唇を知らない。

笠原さんとキス、したことない。

だから夢を見たときも感覚だけなかったんだ。





「天沢とはこのまま続けたいんだけどさ、ユリがなー…」





ユリ…。

私はその名前に覚えがあった。

笠原さんが前に路地裏で強引に私を抱こうとしたときに呼んだ名前。

苦しそうに、呼んだ名前。

あれは笠原さんの、本命の彼女の名前だったんだ…。





「結婚式にお前らも呼ぶって言うんだぜ?知らないって怖いよなー」





アハハ、と悪びれもせず笑う笠原さんは。

もう、私の好きだった笠原さんじゃなかった。