「何も…ない、よ…」





絡みつく視線から逃げるように顔を逸らし。

密着する相良の胸を手で押しやると。

喉の奥から絞り出すように言葉を発した。





…そう、何もなかった。

何もなかったし、何も見ていない。

ここで相良に寄りかかってしまったら。

凹むのは後からでもできるって。

今は任された仕事をしなきゃって。

…さっき必死に堪えたものが溢れてしまうから。





何もないし、大丈夫だよ…と。

少しの笑いを含みながら相良から距離をとろうと腕を伸ばす。

すると。





「…ならいい」





冷めたような相良の声と共に、身体に巻かれていた腕が離れた。





とりあえず誤魔化せた…の、かな?

と、思ったのはほんの一瞬。

次の瞬間。

おでこにピシッと鈍い痛みが走った。