「何があった?」



満月を起こさないよう、慎重に音をたてず奏の隣に腰を下ろす。


しばらく苦しそうに眉を寄せ、目を閉じる。


僕にはまるで、それは何かの痛みに耐えているように見えた。



「……満月が、俺のこと"かなちゃん"だってさ」



それだけで、奏が何に苦しんでいたのかを理解する。



「そうか……」


「なんで…なんでなんだ…っ…」


「奏?」



ぎゅう、と奏は腕の中で目を閉じている満月を抱きしめる。


色の失った満月の頬に、ぽた、と雫が落ちた。



「なんで、満月なんだ……満月は何も悪くないのに……何も、してないのに……なんで満月ばかり、こんなに苦しまなきゃなんないんだよ…っ」


「奏……」


「あのとき…9年前、俺たちがいたら……満月を守ってやれたのに……何と引き換えにしても、守ってやったのにっ」


「……そうだね」



グサリと、奏の言葉が胸の奥深くに突き刺さる。


微かに滲んだ視界を遮るように僕も目を閉じた。