何かあったっけ?


考える私の姿を見て大ちゃんがため息をつく。



「やっぱりな……お前、昨日河井を職員室に連れてこいっつう俺の言葉、忘れてただろ」


「……あ」



言われたような……うん。言われたな、確実に。



「思い出したか?」


「うん」


「そうか」



ニッコリとした笑顔に莉都だけじゃなく、私も悲鳴をあげそうになった。


正直に言おう。私、今ピンチだ。



「つうわけで」



がしっ、と首の後ろを掴まれる。



「お前らは勝手に自習してろ。満月と河井は……俺の特別授業だ」



満面の笑みを浮かべているのにオーラは禍々しい大ちゃんに、莉都はすでに顔が真っ青だ。


もっと言うと当事者ではない教室の人たちも顔が青い。


そんなに大ちゃんが怖いか。


いや、多少は私も怖いけど。


教室にいた生徒をおいて、大ちゃんは私と莉都の首もとを掴んで廊下をずるずると引きずっていった。



着いたのは普段は使われない教室。



「入れ」


「失礼しまーす」


「…………」



恐怖からか莉都はさっきから一言も喋らない。


……なんか、かわいい小動物を苛めている気分になる。


苛めているのはこの場合大ちゃんだけど。



「そこの椅子に座っておけ」



そう言われ大人しく私と莉都は座った。


ここで逆らったらどうなるかは想像に容易い。