少し考えてから月が満ちるで"満月"だと朱雀に説明する。
「ほんなら"ミツキ"は"満月"(まんげつ)って書くんやな」
「そうだね」
昔、どうして私の名前が満月なのか……その意味を教えてもらったっけ。
懐かしい記憶が鮮やかに脳裏に浮かぶ。
「猫ちゃん?どうしたんや?」
朱雀がひょい、と視界ぱに入った。
「ううん。何でもないよ」
そぉかぁ?、と心配そうな顔をする朱雀に本当に何でもない、と言って笑う。
「ていうか、みんなの前では猫ちゃんって言わないでね」
「おぉ、大丈夫やって。ワシと猫ちゃんの秘密やからなぁ」
本当に大丈夫なのかな……と疑わしく思ったけど、自分でも驚くぐらい不思議と朱雀は大丈夫な気がする。
まぁ勘だけどね。
それに、ばれたら逃げればいいか。
「2人とも、何してるの?」
上からふってくる声に顔を上げれば、涼が屋上の扉の前にいてドアノブに手をかけていた。
「別に、何もあらへんよ。それより莉都は?」
「先に屋上行くって。聞いてなかったの?」
知らなかったです。
どれだけ朱雀との会話に集中してたんだろ。
「ワシらも話してたからなぁ。気づかんかったわ、なぁ満月」
「うん。そうだね」
そんなやりとりをしながら、私と朱雀は静かに階段をのぼって行く。
……あれ、そういえばちゃんと取引の内容知らないんだけど。
ちらりと朱雀を見るけど、朱雀はご機嫌そうに私の一歩前を歩いている。
あとで聞けばいいかな。
そう思い、私たちは屋上への扉をくぐった。
今聞いておけばよかったと心から思うのは数分後のことである。