「今、猫ちゃんって言おうとしたでしょ!?何やってんの!!」
二人には聞こえない程度の声で朱雀の耳元に怒鳴る。
「猫ちゃん、さっきのはつい、っちゅうやつやで」
「絶対わざとでしょうが!!」
こそこそしている私たちを見て莉都はキョトンとして、涼は楽しそうな顔をしていた。
「涼くーん……みぃちゃんたち、何話してるのかなぁ?」
「何だろうね」
「……気になるね」
「聞こうとしてもいいけど、朱雀に怒られても知らないよ?」
「うぅ……」
後ろでそんな会話がされていたことに私と朱雀は気づかなかった。
「……つまりは何?私が取引に応じなかったら朱雀は"つい"、私のことを猫ちゃんって言い続けるの?」
「聞こえ悪いなぁ。ワシはあくまでも"つい"言ってしまう"かも"しれへんなぁ、っちゅうだけやからな?」
……屁理屈だ。
はぁ、とため息をこぼす。
もういいよ。分かったよ。
これは私が諦めた方がいいんだね。
「……分かったよ。応じるよ、その取引。
だから、」
もう猫ちゃんはやめて、と続けようとするが、朱雀の
「よっしゃあぁーーっ!!」
……の声でかきけされた。
「ちょっとうるさい」
頭は高いから届かないので、べしっ、と脇腹を軽く叩く。
「悪い悪い。つい、な?」
「…………」
そんなに嬉しいことなのか。
朱雀のニコニコとした笑顔が全く崩れない。


