時々話しかけられたり、抜け出したことを看護婦に怒られたり……
そのたびに彼は笑顔で話していた。
やっぱり…不思議だわ……
「ごめんね。いろんな人に話しかけられちゃって」
「別に…気にしてないわよ」
「そ?よかった」
また……笑顔。
「はい、ここが俺の部屋。個室だからのんびりしても大丈夫だよ」
部屋の前にある名前のプレートは、確かに一つ。
「……………」
これって……
「ねぇ」
「どうした?入らないの?」
「……入るわ」
それよりも……
「聞いてもいいかしら。あなたの名前」
「あれ、言ってなかったっけ?」
彼はキョトンとした顔を向ける。
「えぇ。聞いてないわよ」
興味なんてなかったし。
「そういえば、俺も君の名前知らないな……」
「言ってないもの」
当然よね。
私はとりあえず、彼が座っているベットの近くに椅子を置いて座った。
彼はしばらく何かを考えていたみたい……
そして、あ!と言った。
何か妙案でも浮かんだのかしら?
(何についてかは興味ないけれど)
「じゃあさ、俺の名前教えるから君の名前教えて?」
「……………」
さっき考えていたのはこれ?
「……知る必要があるの?」
「呼ぶのに困るじゃん。あと、人に名前聞くときは自分から名乗るの、これ常識」
私、人じゃないからそんな常識知らないわ。
口には出さないけれど。
……でも、呼びにくいって言うのは一理あるわね。
どうせすぐ忘れるわよね。
知られて困るようなこともないし……
「私は……華」
「華……か。うん。かわいい名前だね」
にっこりと彼は笑った。