「小さい頃から、肝心な時にいつも傍にいてくれたのは、あなただったわ…」
「…それは、私はお嬢様のお世話係ですから」
「そうね、だけど、わたしにとっては、もっと…もっとずっと大きな意味があったのよ…」

時計の針は、午後九時を少し回ったところだった。扉の向こうでは使用人たちが慌ただしく動き回っていた。

彼女は私にそっと耳打ちをし、寂しく微笑んだ。

彼女の婚約が決まるまで、あと一時間足らず。

こんな夜に限って、月が綺麗だった。


ーーーわたしと一緒に、逃げない?







fin.