「……あ、そうだ」



パンケーキを焼き上げて冷ましている途中、オズはふと思い出してワンピースのポケットに手を突っ込んだ。



中から取り出したのは、茎の先に濡れた脱脂綿が巻き付けられている小さな白い花。





真っ白な、花。


形は先日、オズが崖の下で見つけ「ティー」と名づけた花にそっくりだった。



オズの農園の真ん中に、チューリップのようにオズが植えたわけでもなく、自然に生えてきた花だった。




この花が生えているのに気づいた日、とても嬉しかった。

誰も足を踏み入れない自分の敷地に、やっとお客さんが来てくれたかのように感じたのを覚えている。





だから、この花だけでも無事に残っていてホッとした。



と言っても根がダメになってしまっていたから、こうして切り取って持って帰ってきたのだけれど。


しかしながら、此方としては良かったものの、こんなに綺麗な花をなぜあの女の子が摘み取っていかなかったのかが不思議だった。




(摘んでしまわれなくて、よかったけど)



ジャムを入れるはずだった小瓶に水を溜めて、脱脂綿を取り除いた花の茎をそこに挿す。


ゆらゆら揺れる水面にオズの顔がぼんやりと映った。



「……枯れませんように」



心から願って、そっと窓際に置いた。



シンと静まりかえった部屋の中。なんだか耳が痛い。



一息ついて、オズはせっせとバスケットとスケッチブックをかかえて玄関へと向かった。







目指すは、霧の丘。
オズの数少ない生きがいの一つだった。