朝の研ぎ澄まされた空気を胸いっぱいに吸い込んで、オズは微笑んだ。


「おはよう、メアリ・アン」


返事はない。
なぜならばメアリは手も足も口も持たない植物だから。


「スージーもロビンもクイーンも、みんなおはよう」


オズはキッチリと結った金髪の三つ編を揺らせながら、庭の植物ひとつひとつに声をかけながら歩いていった。

まだうんと小さな芽だった頃からオズに大切に育てられた“彼女たち”は、朝露の粒を自慢げに光らせる。


植物は口をきかない。

しかし、それでもオズには十分だった。



オズはここのところずっと、大好きな植物たち以外とはまともに会話をしていない。


会話というよりも、
オズが一方的に話しかけ、
自分の頭の中で花たちの返事を考え、
それで満足をしているだけだった。




それでもオズには十分だった。



金髪の三つ編みを結わえ、


壊れかけの赤い眼鏡をかけ、


裾の長いワンピースを着て、


小さな身体に似合わない大きなスケッチブックを背負い、


オズは今日も出かけていく。



「いってきます、みんな」



今日も、返事はない。それはこれからも、ずっと、ずっと。




それでもオズには十分だった。





ここはセブンスダヴリュ。

世界中から忘れ去られた、霧の村。




==オズと霧の浸食過程==

…Start...?