100年前、突然にセブンスダヴリュの村の崖面から噴出した霧。


不定期な周期で紫や緑や群青に色を変え続けるそれを吸い続けた人間は、原因不明の病にかかり1月と経たない内に苦しみもがき皆例外なく死んでゆく。

村人は恐怖に震えながらそれを「毒の霧」と呼び、その噂はたちまち旅人に、ついには他の集落に伝わった。


そしていつの間にか、セブンスダヴリュの村が霧の村と呼ばれるようになった今では、毒害を恐れて誰も近づかない。





「毒の霧が立ち込める霧の村」
「死者のたむろう霧の村」


セブンスダヴリュからはほど遠い城下の子供たちは地図に描かれている地名のない丘陵を指差しては空想の冒険談を語りあったり、ありもしない村の伝説を作り上げて遊んでいた。



その頃にはもう霧の村にはその程度の存在意義しかなく、

地図から名前は消え、

まがい物が混じった噂も使い古されて消えた今。

霧の村は空想上の村で実は存在しないのではないか、とみんな口をそろえて言うようになった。




霧の村の存在はやがて忘れ去られていった。




何よりもまず、「そんな毒霧だらけの村ならば、草も木も人も死に絶えとっくに滅びているだろう」と。



――しかし村は存在していた。草も木も人もそっくりそのままで。



人知れず村人は営みを繰り返していたのだ。


ただし、霧の脅威を逃れるべくただ一人の少女を犠牲にして。


これは忘れられた村と魔女と呼ばれた少女の、霧をめぐる物語。


哀しい哀しい、物語。