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それはもう、突然という言葉がピッタリ。
3か月もの間、音信不通だった彼からいきなりメールが来たのだ。

【 会いたい。学校が終わったら連絡がほしい。】

彼、駿はバイト先の先輩で、歳は私と4つ離れている。
駿いわく、貧乏大学生らしい。
歳も近かったせいか、私と駿はすぐに仲良くなり、付き合うのも時間の問題だった。
気がついた時には、キスもしていたしセックスもしていた。

女にだらしないというか、そういうところもあったけど好きだったから許せてしまったし、3か月も待てたのだと思う。

昇降口から学校の校門の近くに、見慣れた車がとまっているのが見えた。
改造されて、ちょっとイキがった車体。黒光りする車。
先の剥げたローファーをはき、駆け足で彼のもとへと向かう。

私が近づくと車の窓ガラスが開き、3か月ぶりの彼の顔が見えた。
少しやつれたような気もする。
ツリ目と優しそうな口元は、変わってないけど。
「よ、乗れよ」彼は一言だけ呟くと窓を閉めた。
私は、一呼吸おいてドアを開ける。
懐かしい彼の匂い。
甘ったるさの中に混ざる、苦い煙草の香り。

駿は、私がドアを閉めたのを確認すると車を走らせた。


「今までどうして連絡くれなかったの?」「忙しかったの?」「何してたの?」
聞きたいことはたくさんあったけど、心の中に積もった得体のしれないモヤモヤがそれを拒む。
駿は真っ直ぐ前を見て、珍しく両手でハンドルを握って運転している。
何を言っても不自然そうになってしまうような気がして、何も言えない。
息をするのも辛いくらい。

涙が出そうになって、俯くと彼のため息が聞こえた。


「俺さ、ガキできたんだよね」

「え……」

「駿に?駿って妊娠するの?」なんて笑って誤魔化そうとしたけど喉の奥が詰まって、言葉すら発せない。

「で、結婚することになったんだよね。その人と」

「……ごめんな、友紀」


何それ。馬鹿じゃないの。まだ大学通ってるのに?
どれだけ、甘ったれなのよ。ほんと…馬鹿じゃないの。


「うん。幸せに、して、あげなよ。私はもういいからさ」


これっぽっちも思ってないことを言った。
それも笑顔で。

馬鹿なのは、駿じゃなくて私だ。
そんな馬鹿な男をこんなにも愛しているんだから。