「おはようございます」

定時より早く身支度整えて、顔を出した幻に、母親は、朝ごはんを作りながら、軽く目配せした。

「あら、ヨウ。早いわね」

きちんと制服姿に着替えて、彼だけが必要とするメガネをかけて、幻は、食卓に着いた。

母親には、声色だけでも三人の区別がつく。彼女に言わせれば、当たり前のようだが、父には全く違いがわからないらしい。ただ思春期を迎え、それぞれ外見的な差もでたので、今では迷わなくなったらしいが。

ヨウは、長く伸ばした髪を束ねず、メガネを掛けている。それに、口調も丁寧だ。知的なヨウに相応しい雰囲気だと、父親でさえ褒めていた。

「昨日は、早く寝たみたいだけど」

「はい。読書は朝に切り替えました。夜は、ゲンがテレビをみたがるもんで」

差し出された珈琲を口に運びながら、ヨウが笑う。優しい表情に、母親もわらっていた。

「色々だけど、うまく折り合い付けてね。私には、三人とも可愛い子どもなんだからね」

分け隔てなく育てるのは、自分たちのばあいは、さらに容易ないだろうと、ヨウは感謝していた。

「ありがとう。でも、探しているんです。色々と…」

苦いのは、珈琲の味でないと感じて、母親は、焼きたてのマフィンも差し出した。

「何かなすには、時も必要よ。焦るなんて、あなたらしくないわ」

こういうとこだと、ヨウは思う。

母は、実にうまい。自分たちをよく知っている。ヨウには、諭される以上に、今の言葉は、効く。そして、安堵もしていた。

「ですね。アヤを出しますね。彼女も、話したいみたいだから」

そう言うとヨウは、メガネを外し、目を伏せる。次に瞳があいた時には、可愛い娘の姿が見えていた。

「おはよう。アヤ」

母は迷わず言う。アヤは、にっこり微笑み返していた。

「母さん。おはよう」

「ヨウは、少し落ち込みぎみだけど、貴方は、大丈夫?」

「うん。かんがえ過ぎない様にしてるし。ゲンに至っては、考える気もないわ。頭良い分、ヨウは、悩むのかもね」

「そう」

そして、ようやく起きて来た父を交えて三人での朝食が始まる。

アヤは、手慣れた手つきで髪をポニーテールに結ぶ。長く伸ばした髪は、一度も下ろしたことがない。だから、後からきた父にもアヤだとひとめでわかった。

「おはよう。アヤ」

「うん、おはよう。とうさん」